男性の中の女性像は、アニマ(Anima)、女性の中の男性像はアニムス(Animus)といいます。男性における女らしさ、女性における男らしさです。

目次
アニマとアニムス
アニマとは本来ラテン語で〈魂〉を意味する言葉です。スイスの精神医学者ユングが分析心理学の用語として用い、現在ではその意味で使用されています。
ユングは夢分析の際に、男性の夢に特徴的な女性像が多く出現することに注目して、そのような女性像の元型が、男性たちの共通のイメージ(普遍的無意識)に存在すると仮定し、それをアニマと名づけました。
女性の場合は夢に男性像が現れ、その元型がアニムス (アニマの男性形) となります。
男性も女性も外的には社会に承認されるために、いわゆる男らしいとか女らしいという仮面(ペルソナ)をつけているが、内的にはその逆のアニマ (アニムス) のはたらきによって心のバランスを保っていると考えられます。
男性は大人になるにつれて、自分の中のアニマを排除しようとし、女性は反対にアニムスを排除することによって女らしくなろうとします。
しかし人間は、男女共に中年期になるとアニマとアニムスの統合が進み、アニマとアニムスの両方を受け入れるようになると考えました。ユングは中年期を「人生の正午」と名付けました。中年期には精神世界で多様な危機を経験しますが、それらを乗り越えられる時期としたのです。
アニマ (アニムス) は共に肯定的、否定的なはたらきをもっています。しかしそれを可能な限り意識化して人格の統合をはかることが、個人の自己実現の過程であるとユングは主張しました。
元型(archetype)
元型とは、ユングによる分析心理学の用語です。 〈原型〉〈太古型〉などとも訳されています。全ての人間の心に存在している神話や伝説の素材、といえます。

ユングは 20 世紀の初頭、精神分裂病者(統合失調症)に対する心理療法的な接近を試み、人間の幻覚や妄想の内容を、できるかぎり理解しようと努力しました。
彼は人間の幻覚や妄想が、正常者の夢や空想、神話・伝説・昔話などときわめて類似性の高いイメージを持つことに気づきました。
このようなイメージが、時代や文化の差を超えて類似しているのは、人類共通の無意識が存在するからと考えました。
その後、そのような共通性(普遍性)の高いイメージを産出する普遍的無意識の内に、元型の存在を導入するようになりました。
元型はあくまで仮説的な概念であり、それ自身を意識化することは不可能とされます。しかし、モーゼやキリスト、仏陀、ムハンマドといった天才宗教家は、意識化に成功していたとの意見もあります。
普遍的無意識(collective unconscious)
普遍的無意識とは、ユングによる分析心理学の用語。〈集合的無意識〉ともいわれています。人類に共通している心の層です。

ユングは無意識を二つに分けて考えました。
・個人的無意識—- 個人の中で忘れてしまった記憶の内容、意識によって抑圧された内容(性欲・殺人願望他)など。
・普遍的無意識—-人類に共通している心の層。全世界に共通している神話的なイメージ(どの国にも神話や伝説が存在している)。われわれの祖先の経験が遺伝したものと考えられています。
S.フロイトの無意識概念がもっぱら個人的無意識を強調するものであったので、ユングの考えは受けいれられず、両者が決別する一因ともなりました。
ユングは、人間がみる幻覚や妄想の内容が全世界に存在している神話の内容と極めて似ている事実を見いだし、そのことから普遍的無意識の存在を主張するようになりました。彼はその内容として元型の存在を主張しました。
ユング Carl Gustav Jung 1875‐1961
スイスの精神科医・精神医学者。 分析心理学の創始者です。ケスウィルに牧師の子として生まれ、クラフト・エービングの著書等に影響を受け精神医学の道へ進みます。バーゼル大学医学部卒業後、チューリヒ大学の精神科でブロイラーの助手となり言語連想法の研究で有名となります。

S.フロイトの『夢判断』を読み感激したユングは、 1907 年にフロイトを訪ね、両者は協調して精神分析学の建設と発展に寄与します。
10 年、国際精神分析学会の会長になりますが、 12 年に発表した『リビドーの変遷と象徴』によってフロイトとの考えの相違が明らかとなり、論争を重ねた末に訣別します。
その後、13‐16 年にわたって、強い方向喪失感に襲われ、創造の病ともいえる内的危機に直面します(この時、彼の机の引き出しには拳銃が用意されていました)。
この時期に彼自身が体験した「無意識の対決」を基礎として、それに学術的検討を加えることによって、彼独自の分析心理学の体系を確立できました。
ユングは精神病者の幻覚や妄想が古来からある神話、伝説、昔話などと共通の基本的なパターンの上に成り立っていることを認め、〈元型〉、という考えを提唱しました(1919)。 彼は人間の心の世界には個人的無意識と普遍的無意識という 2 つの層が存在し、後者はひろく人類に共通であり、そこに元型が存在すると仮定しました。
1920 年代より、キリスト教と自然科学を相対化する努力を続けました。また各界の学者と共に「エラノス会議」を設立(1933)。ヨーロッパ史の表面には現れなかった秘教的伝統を研究しました。また、彼は中国の「道」の考えに影響され「易経」や、日本の禅などの紹介にも努めました。
主な著書は『心理学と錬金術』(1944)、 『アイオーン』(1951)、『結合の神秘』(1955‐56)。彼の考えは当初あまり理解されませんでしたが、70 年代より世界の人々の関心を集め今日では高い評価を得ています。

若き時代のユングは精神分裂症(統合失調症)患者に深い同情と献身的な態度で臨みました。時としてユングは女性患者の心的世界に巻き込まれてしまい、性的な関係を結んでしまうこともありました。
少年時代のユングが愛読したのはロマン派詩人ゲーテの「ファウスト」。ゲーテの哲学は「永遠に女性的なるものが自分を高みに引き上げる・・・」というものでした。すなわち
・女性における男性性(男らしさ)
・男性における女性性(女らしさ)
が自分をより高めている、とする哲学でした。
「もう一人の自分」を意識していた少年ユングは、やがて情熱的な青年へと成長します。後に彼はそれを「NO2」あるいは「シャドー」と名づけることになります。
青年時代は降霊会に熱中します。従妹のヘリーが強い霊媒能力を持っていました。降霊状態の彼女の予言は次々と的中し、時には宇宙論の体系についても語りました。
彼女は「兄への恋愛感情」、すなわち思春期の少女に多い、特有の近親相姦愛を抱いていました。ただし、ヘリーが性的成熟へ近付くにつれ霊媒能力は衰え降霊会ではもっぱら安易なロマンスを口走るだけになってしまいました。遂には
「カール(ユング)と一つになる夢を見た」
と語り、ユングへの誘惑を繰り返すようになります。怖れたユングは「いわゆるオカルト現象の心理と病理」を発表。「降霊現象はヒステリー患者による性的妄想によるもの」としました。後に彼女は発狂し、やがて衰弱の中早世します。彼はそれを終生後悔することになりました。
そうした中で、全てを性でとらえるS.フロイトの《夢判断》(1900)との出会いは衝撃的でした。1907 年にフロイトを尋ねた時に彼はこうフロイトに告白しました。
「貴方とあまりに親しくなると同性愛的感情が生じるようで、恐ろしいのです」
「・・・息子よ、それは貴方が私に父親像を求めているのです・・・」
ユングはフロイトの基で頭角を表し、10 年、国際精神分析学会の会長となり「精神分析会のプリンス」と呼ばれます。しかし、あるきっかけが基になり彼は独自の路線を歩み始めてしまいます。ある患者がユングに
「太陽からペニスが垂れ下がっている。それが動くと風がおきる」
と語りました。ユングはそれに驚愕しました。性欲理論ではペニスを男根、太陽を経口と分析できます。しかしミトラ文書(古代アーリヤ人の宗教記述、一般人が読む事は絶対に無い)とまったく同じ内容を述べていたのです・・・(ミトラ文書には、太陽から地へ向かう管の振動が風を引き起こすと記されていました)
やがて、リビドーは性や幼児性愛に限らず他のことでも説明できると主張し、師匠の怒りをかい破門されます。
ユングは、「宗教は性的白昼夢から生ずる」とするフロイト説を独自に補正しました。全ての人間の精神世界にはもともと共通する「見たいイメージ」(普遍的無意識)が存在している。それをモーゼやキリストといった天才達が具体化したのが宗教であるとしました。また、世界のどの国にも共通して魔術や降霊の伝承が残されている点にも着目し、これも各地の天才たちが具体化したものだと考えました。そして全ての人間は「見たい」と感じるものはみることができる本能をもっているとし、世界中の古文書に記されている「奇跡」は事実であるとの認識を示しました。ただし、現在は実証科学の面から様々の批判もされています。
しかしユングは、「宗教は性を抑えつけるものではなく、性的白昼夢でもない。宗教と性は、同じテーブルにただ単に座っているモノ」として捉えた点は、評価されています。
日本ではユング派の心理学者として河合隼雄が有名です。
オイゲン・ブロイラー(1857-1939)

ブロイラーは、ブルクヘルツリ精神病院で患者の心理的接近法を試みていた精神科医・精神医学者です。当時の精神病に対する心理的理解者でした。特に患者への惜しみなき献身において抜きん出ていました。ユングは当初、ブロイラーに師事していました。
アルフレート・アドラー(1870-1937)

フロイトサークルの中でもっとも論理的な理論を打ち立てた個人心理学の祖です。ユングと同じくフロイトの性欲理論を否定し、決別します。アドラーは、劣等感を補償するための力への意思が人間を動かしていると主張しました。

精神医学者エレンベルガーはユングをこう評しました。「ユングの持つ人を魅了する特徴の一つは、割り切った現実的思考から高速きわまる抽象的思弁に突如話題を切り替える、その能力であった。」
参考文献:
Library of Congress
Classics in the History of Psychology
Jung, Carl G. (1910). The association method. American Journal of Psychology, 31, 219-269. [Introduction of Jungian psychology to North America ; Jung’s most important empirical work.]
Jung, Carl G. (1921/1923). General description of the types. Chapter 10 of Psychological types (H.G. Bayes, Trans.). (Original work published 1921) [Key chapter of Jung’s major treatise on personality.]
夢判断 / S.フロイト 著; 高橋義孝 訳. 上 東京 : 日本教文社, 1954.10
夢判断 / S.フロイト 著; 高橋義孝 訳. 下 東京 : 日本教文社, 1955.8
人間と象徴 : 無意識の世界 / C.G.ユング [ほか]著 ; 河合隼雄 監訳. 上 東京 : 河出書房新社, 1975.9
人間と象徴 : 無意識の世界 / C.G.ユング [等]著 ; 河合隼雄 監訳. 下 東京 : 河出書房新社, 1975.9
無意識の発見 : 力動精神医学発達史 / アンリ・エレンベルガー 著 ; 木村敏,中井久夫 監訳. 上: 弘文堂, 1980.6
無意識の発見 : 力動精神医学発達史 / アンリ・エレンベルガー 著 ; 木村敏,中井久夫 監訳. 下 : 弘文堂, 1980.9
創造の病 : 天才たちの肖像 / 福島章 著 東京 : 新曜社, 1997.4
パトグラフィーへの招待 / 福島章,中谷陽二 編 東京 : 金剛出版, 2000.4
ユング派の臨床 / 河合隼雄 編 東京 : 金剛出版, 2000.2
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